スノーボード・アルペン 竹内智香 - 後編 -

竹内智香は一昨シーズン(2008~09年)、W杯で4度も2位に着けながら、優勝には手が届かなかった。1位と2位との差は100分の数秒。そこまで来るともはや技術の差ではなく、気持ちの問題だと竹内は言う。どれだけ勝ちたいと思えるか、勝利を引きつけることができるか。その点で、自分はまだまだ勝利への執念が弱いと、一昨シーズンを振り返って感じている。
日本人選手にとって、W杯の表彰台に上がるということは“快挙”。準決勝で表彰台が確定した時点で、心のどこかで安心したり満足している部分があり、何が何でも優勝という気迫に欠けていたのかもしれないと、竹内は2位に甘んじた原因を語る。日本人選手に比べて海外の選手は「1位でないと意味がない、2位や3位は評価するに値しない」と考える傾向が強いという。その考え方の違いが、貪欲に勝ちを取りに行く気持ちに表れるのではないか、と。
その一方で、勝つことだけがすべてではないとも考えている。「自分が負けてもゴールではライバルと抱き合って、心からおめでとうと言える選手が、スノーボード アルペン競技にはとても多いんです。負けたときに相手を称えられるからこそ、次に勝ったときには自分が祝福してもらえると考えています。競技から勝つことだけではなく、人間として大切なことも学んでいきたいと思っています」。
竹内は、レースのスタート台に立つ瞬間が一番好きだそうだ。緊張感、ワクワク、ドキドキに満ちた、非日常的な空間。世界中の人々が注目しているオリンピックでは、その興奮がさらに高まる。バンクーバー五輪のスタート台に立ったときは、スイスチームのコーチが付き添い、またスイス人スタッフからサポートを受けるという、スイスに渡ってからの3年間、願い続けてきた状態でレースに臨むことができたため、感動と感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
バンクーバー五輪でのレースで敗退した瞬間は、すぐに「また4年頑張ろう」と思ったが、1日経ってからもう一度、あと4年続けるのかと自分に問いかけたときには、「すぐにイエスという答えは出てこなくて、もしかしてこのままやめるのかなと感じました」。それは、競技を続けるのならば、やはりスイスに拠点を置きたい。しかしスイスで活動していくためには、各方面への調整と多大なエネルギーが必要だということを痛切に感じているからだ。「今までの3年間よりこれからの4年間の方が、もっとエネルギーが必要になる。それが果たして自分にできるのか」。
竹内は、競技を続けるからには100%満足のいく状態で、2014年のソチ五輪を目指してやりたいと考えている。「4年間スイスでやりますと宣言しても、私一人で決めてできることではありません。スイスのスキー連盟・コーチ・選手の了解や、日本スキー連盟の理解、スポンサーの理解、すべてが必要です。だからこの夏はその準備期間と考えて、4年後にベストの状態でソチに臨むため、さらにはソチで勝つための、土台作りをしたいと思っています」。4年間全力で取り組めるという確信が持てないような、中途半端な状態では、スタートを切ることはできないと常に高みを求める。
この3年間スイスで活動してきた実績のある竹内にとっても、それらを調整し、準備することは大変な労力を要する。しかし「困難と思えば困難になってしまうので、困難と考えることはしません。もしできなかったら、と考えただけでできなくなるので、今は“すべてができる”としか考えていないです」と、強い意志を見せる。この前向きな考え方が、自分で道を切り開いてきた竹内の基盤にあるものなのだろう。
来年(2011年)スペインで行われる世界選手権で、竹内は表彰台という目標を掲げている。なぜならば前回の同大会(2009年)で、今まで一度も負けたことがなかったスイスの選手に敗れ、4位という結果で悔しい思いをした。さらにスタート直前、「もし私が勝ってメダルを持っていってしまったら、来年スイスチームに残れるのかな、なんていうことを考えてしまった」と、メンタル面の弱さが露呈。結果、表彰台には2人もスイスチームの仲間が上がった。「チームメイトが表彰台に上がったことに対しては、喜びも感じますし、彼女たちが上がれたのだから自分も上がれるという自信ももらえたんですが、どうして彼女たちが上がれて自分は負けたのかと考えると、彼女たちの方が勝ちたいという気持ちが私よりも強かったんだと思います。次の世界選手権で自らが表彰台へという強い気持ちをすでに持っている。
国を超え飛び込んだスイスチーム。言葉や文化の壁を乗り越え、チームメイトとして信頼関係を構築できていても、まだどこかで小さな“弱さ”が、世界で戦うハードルになっていることに気づくことができた。雪を下りれば穏やかな笑顔だが、ひとたび雪山にフィールドを移せば、信念を持った目が輝く。その輝きが増すたびに彼女は強くなっていく。
(文:岡田佳奈子)

















